“becoming”
release of multi cloth
2023.5.20(St.)–23(Tue.)
12:00–18:00
@ unefig.アトリエ
東京都台東区蔵前4-20-10 宮内ビル4F
店舗物件ではない事情もあり、予約制とさせて頂きます。
お手数ですが、ウェブサイトのcontactよりメールにて、他普段やり取りのあるメールやLINE、メッセンジャーやDMからでも構いませんので、ご希望の日時をご連絡ください。
一枚の布だけを発表してみたいと思った。シルク100%のシーツがあったらいいのにとリクエストを頂いて、それなら枕カバーも、パジャマもと考えるのがコレクションというものだろうが、どうしても一枚に絞りたかった。出来るだけ余計なことはせず、生地が内包している豊かさが伝わるように。
染め上がった生地が届くと、いつもしばらくうっとりする。何度も使って見慣れているはずでも、毎回、何てきれいなのだろうと見惚れる。一体どのようにしてこのような生地が生まれるのか。福井の機屋さんを訪ねた。機を織ると一口に言っても、実際に織る前にもたくさんの工程がある。織りやすくするために糸を糊付けし、準備する。中でも経糸を用意するための整経はとんでもなく複雑で、織る生地の種類や幅にあわせて必要な糸の本数を緻密に計算し、そのまま機に設置出来るようにきっちりと糸を並べ、まるでインスタレーションのように交差する糸を操り、信じられないくらい小さな穴に糸を一本ずつ通して順序を整えたりと、想像をはるかに超える作業の連続である。機織りが始まってからも放っておくわけではない。一人一人が各々何台かの機を受け持ち、糸を掛け替えたり、調子を確認したり、機械を使っていても、それは紛れもなく手仕事であった。不安定で手の掛かる自然素材が相手であるために、常に調整や工夫が必要で、機械にお任せといった風はちっともない。織り上がった後も精練等、染色前の仕上げの工程が続く。ここでは到底書き切れないが、原料を厳選し調達するところから、丁寧で地道で惜しみない仕事の積み重ね、そして飽くなきもの作りへの情熱によって、あの生地の独特の豊かさが生まれるのだと、どっしりと腑に落ちた。もっと端的に言えば、心底感動した。職人さんたちは真剣に、でも淡々と当たり前の顔をして働いていて、その姿は清々しく、この光景が永く失われないことを心から願った。
絹紡羽二重という生地は、通常の平織りが緯糸と同じ太さの経糸一本で織るのに対し、経糸を細い二本にして織るため、柔らかく、軽く、平らで滑らかに仕上がる。今回使用したような厚みのある生地では、経糸を三本にし、さらに密度を高める。経糸には生糸、緯糸には絹紡糸と使い分けることで、絹紡糸の特徴である落ち着いた光沢、空気を含んだふんわりとした肌触りも感じられる。羽二重は乾燥した地域では製織しにくいことから、古くから北陸地方で生産されてきた。訪れた機屋さんでは、加えて地下水を利用し、年間を通して湿気を保っているそうだ。また、福井の羽二重は、緯糸を水で濡らして織っていく「ぬれよこ」と呼ばれる製法を用いるため、より引き締まり、こしがあって丈夫な生地になるのだという。高度な技術を要するぬれよこ製織が出来るところは四軒にとどまる。厚手の生地となれば、一層難しい。伝統的には着物の裏地や礼服に使われてきたが、生地の性質や特徴から、マルチクロスという用途にも適していると考えた。
生地はすでに充分に満たされているのだから、それを壊すことなく、相応しい形を考えなければならない。その答えのひとつとして、マルチクロスを作った。名前の通り多様で自由な布。シーツとして、タオルケットのような軽めの掛け布団として、ソファカバーに、リラックスタイムにブランケットのように包まれば、身体中の疲れが抜けていくようでもある。シルクは夏は涼しく冬は暖かく、保湿性、吸水性、放湿性に優れている。一年中共に暮らせば、きっとあなたの肌とも溶け合っていくだろう。
生地の素晴らしさを伝えるために、詳細な工程を追うのとは違った、直に核心に触れるような方法が必要だと思った。それには、松原博子さんの写真が応えてくださった。写真に表れている美しさは、生地を構成する糸一本一本の持つ力であり、注ぎ込まれた果てしない時間と数え切れないほどの手の跡だと思う。繭から糸が生まれ、生地に成り、今はマルチクロスの形を伴い、変化の予感の中で、次の手と出会うのを待っている。時は流れ、生成と変化は終わることなく続いていく。
展示会では、サンプルをご覧頂き、マルチクロスのご注文を承ります。ネイビー、ライトグレーの二色展開、限定生産です。あわせて、既出コレクションの販売も致します。試着もお気軽にどうぞ。皆さまのご来場をお待ちにしています。
――山本千夏 unefig.(ユンヌフィグ)
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