「線」が必要である。
文字のかたちを追い求めるあまり、線を蔑ろにしていないか。
墨があり、筆があり、そして「線」があって、「かたち」が生まれる。——草刈樵峰
大分県竹田市。初めて行った時には、随分日本の端っこに来たものだと感じ入ってしまった。最寄りの熊本空港から車で1時間半ほどの、山をいくつも越えて辿り着くその土地は、すり鉢状の地形で、時々巨石がにょきっと顔を出している。四方を山に囲まれ、街の外へ出るためには必ずトンネルを通らなければならない。奥まった印象である。現在も残る岡城址と城下町の風情がにぎやかだった昔を思わせる。街中から少し歩けば、豊かな自然や田畑が広がり、山水画のような景色をあちこちに見ることが出来る。
ここはひとがいい。
彼はもう三日も続けて釣りに行って、一日中帰って来ない。普通の川ではない、山奥の渓谷である。最後に会った時には何だか思い詰めていたような気もする。よからぬことを考えているのではないか。いつもとてもよくしてくれるけれど、どうも心の内を全ては見せてくれてはいないようでもある。どこか陰がある。それに、どうやって食べているのだろう。余計なお世話だが、色々な意味で心配だ。
そうして僕らは釣りへついて行くことにした。ただ彼の背中を見て、釣り糸を垂らし、一日が終わるのを待った。彼は僕らが思うようなことを考えてはいなかった。ただ静かに、古代から変わらぬ苔生した岩を眺め、水の音を聴き、魚の生を、時の流れを感じながら、僕らとは別の時間の中にいたのだろう。それが必要だった。内に隠って、自らと向き合い、自らを越えて、漂い、じっと沈んでから、ひゅっと浮かび上がるような瞬間を待っていた。
そうやって字がやってきて、彼の書は生まれるのだろう。
二月にオレクトロニカがさる山にやって来たのは、草刈淳が関係している。——山本千夏
「線を成す」草刈樵峰
2017年11月11日(土)–19(日)
1–6 pm 会期中無休
11, 12、19日 草刈樵峰 在廊予定
草刈樵峰ウェブサイト
http://zatsuya.ocnk.net/
小さな書のみの展覧会です。製本家西尾彩氏製作の美しい専用函とあわせてご覧ください。
西尾彩(citruspress)ウェブサイト
http://www.citruspress.jp/
展覧会期間中、リュート奏者井上周子の演奏会を行います。さる山まで、予約・問い合わせください。
リュート演奏会@さる山
2017年11月19日(日)6 pmより
3,000円(ドリンク付)要予約
井上周子/東京音楽大学卒業後、リヨン国立校等音楽院にて博士課程終了。在仏中より音楽祭に出演。帰国後は各地での演奏活動のほか、セミナー等に招聘される。ルネサンス、バロックや中世の音楽、ワールドミュージックを取り入れたものなど、四枚のCDをリリース。従来の古楽器演奏の形式を踏襲しつつ、ジャンルに捉われない音楽づくりを目指す。
於「さる山」
東京都港区元麻布3-12-46和光マンション101
電話03-3401-5935
https://guillemets.net/
http://www.facebook.com/guillemets.layout.studio.saruyama
Shouhou KUSAKARI “Lines” calligraphy with small boxes | exhibition
November 11–19, 2017
1–6 pm open
Special boxes are made by Aya NISHIO who is a bookbinder.
Shouhou KUSAKARI website
http://zatsuya.ocnk.net/
Aya NISHIO(citruspress) website
http://www.citruspress.jp/
And
Chikako INOUE play the lute @SARUYAMA!
6 pm start, November 19(Sun), 2017
3,000 yen with drink
Reserve this performance, please.
Please come see them.
at “SARUYAMA”
3-12-46-101 Motoazabu Minato Tokyo/1060046 Japan
phone 81(0)3-3401-5935
https://guillemets.net/
http://www.facebook.com/guillemets.layout.studio.saruyama
タグ: 草刈淳
Olectronica 「彫刻と絵画」@さる山
僕らOlectronicaがライフワークとして制作をしているWood figureは、それ自体、動きの少ない小さな木彫の人形です。空間や鑑賞者との関係を強く意識した作品で、それぞれの視点や感覚によって新たな作品として展開することを期待しています。想像妄想で作品を自由に動かし、是非この空間を飛び出して下さい。また、平面作品も展示します。併せてお楽しみ頂ければと思います。
——オレクトロニカ 加藤亮、児玉順平
2017年2月18日(土)–26(日)
1–6 pm 会期中無休
18, 19日 オレクトロニカ/加藤亮、児玉順平 在廊予定
Olectronica ウェブサイト
http://www.olectronica.com/
大分県竹田市。初めて行った時には、随分日本の端っこに来たものだと感じ入ってしまった。最寄りの熊本空港から車で1時間半ほどの、山をいくつも越えて辿り着くその土地は、すり鉢状の地形で、時々巨石がにょきっと顔を出している。四方を山に囲まれ、街の外へ出るためには必ずトンネルを通らなければならない。奥まった印象である。現在も残る岡城址と城下町の風情がにぎやかだった昔を思わせる。街中から少し歩けば、豊かな自然や田畑が広がり、山水画のような景色をあちこちに見ることが出来る。
ここはひとがいい。
彼らは何だか放っておけないところがある。そこそこ大人なのに、純粋なところがあって、子犬みたいについてくる。僕が気まぐれで三日続けて釣りに行った時、何を思ったか、心配してついてきた。何か話す訳でもなく、だた一緒に釣りをした。時々こちらをちらちら確認する眼差しは、笑えるほど優しくて真剣だった。
そうやってひとを見ているのだろう。木片から、こつこつ小さなひと形の像を彫り出し、配置する。ひとりひとりは飛び抜けて立派でもなければ個性的でもなく、善人でも悪人でもなさそうである。かといってのっぺらぼうの虚無ではない。すくっと立つそのひとたちは、どこにでもいる少し悩みがあって、それでもささやかな楽しみを生きるひと、自分の道をひたすらいくひと、そして遠くから見守ってくれる大きなひと。ひとを単純化した時、普遍性が現れる。その傍らには、ともに歩むようにして、観る人、接するひとにも想像する自由を。
心を寄せるには、余白が必要だった。
十一月に草刈淳がさる山へやって来るのは、オレクトロニカが関係している。
——山本千夏