『些事』は、「ギュメレイアウトスタジオ+さる山」内「引用符書店」発行の冊子です、と印字されたA6判8頁のフリーペーパーを制作しています。直接お渡しできない方々もいらっしゃるので、現在発行している二巻の内容を一部(というか、その大半)紹介させてください。文章は全て山本千夏、第一巻の写真は猿山修、第二巻は上出恵悟によるものです。
第一巻 「濱中史朗」
祈るかわりに
山口県萩、濱中史朗宅。決して明るくない部屋には横長の窓、斜めに射す光。薄ら照らされた横顔はx線撮影みたいに骨格を浮かび上がらせた。うつくしい形だ。
横顔を見せる彼は後頭部を見ている。ものを見るとき、自分の後頭部を器に重ねて見ようとしているのだという。自分以外のものを見ているようでいて、自分自身を見ている。あるものをいいと思うか思わないかの判断基準はすでに彼の中にある。ひとは潜在的に自分の持っている何かに惹かれるのかもしれない。頭という誰もが持っているもの。だからなのだろうか、彼の器に多くの人が惹かれるのは。
濱中史朗の作るスカルは頭−スカル−茶碗−湯呑といった具合に頭が抽象化されていくにつれ、実用性が増しているように見えて、心地よく手に添い馴染む丸みが茶碗や湯呑のそれとよく似ている。
彼が用いる代表的な意匠であるスタッズは、実は歯である。びっしりと並び鋭く切り出された形は、固い肉さえ噛み切る刃物のようなものであったと今更ながらに本来の性質を思い出させる。スタッズはひとつひとつ切り出される。聞いただけでも気の遠くなる細かくて単調な作業は、彼にとっては千羽鶴を折るようなものなのだという。それは自分のためではないし、何か願いを叶えるためでもない。ただ祈る行為そのもの。
洗練されていながら本能に訴えかけ、胸を衝き揺さぶるほど激しく、また安らかである。彼の器について語ろうとすると、初めて神饌を見た時の印象と重なる。神様に捧げるために串刺しにされた鹿や猪の頭。その恐ろしいこと、そしてうつくしいこと。一番大事な頭は神様へ、他の肉は神様と共に食す。
彼は器に自分の後頭部を見ている。生み出したものを捧げていると同時に、彼自身が捧げられるものそのものである。だから頭でなくてはならない。
当然ながら、彼にとって作ることは趣味ではないし、流行のような表面的なこととは関係がない。「創ること」しかなかった切実さが昇華して器になったのだ。それが、かっこいいと言われてわけも分からず手に取られる。何と素晴らしいことだろう。
バックボーン
濱中史朗とその器の骨格を成しているものは何だろう。彼の口から語られた一言一言がパズルのように組み合わさって姿を現しはしないだろうか。
八月九日生まれ。かつて、長崎に原爆が投下された日。二十代は出張料理人に付き日本中をまわった。料理だけでなく、室礼や花を学ぶ。様々な聖地といわれる場所を訪れた。萩に戻り、自身の器を作り続けると同時に、代表、職人として大屋窯を父から受け継ぐ。祖父は原爆投下の折、医師として広島に入った。早くに亡くなった叔父は診療放射線技師。白と黒は特別な色。汚いものがいいと思う。不に惹かれる。三種の神器に興味がある。
彼にまつわることを聞いても、器については結局、自分のことではないし自分が作っているのではないのだという。
その眼差しは自分自身と向き合うというより、少し先の「奥」を見ているようである。鏡に向かい合って自分の顔を見つめるのではなくて、手に持った鏡で自分の後頭部を映し、その像を正面の鏡で合わせ鏡にして見ているような感覚。試したことのあるひとなら誰でも想像がつくだろう。合わせ鏡をすると、前後左右が非常に曖昧になって触ろうとした箇所をうまく触ることも難しい。まるで自分の手ではないような気がしてきて、何とか触った箇所さえも自分の一部ではないような不思議な感覚に捕われる。合わせ鏡で見た自分の後頭部から入って、そのまま目を通して物事を見ているような距離が、彼にはある。切っても切れない一心同体のはずの自分自身に対して直でなくて、自分自身に後ろから入り直したような独特の距離。彼自身が器になって、何かで満たされ、そこからまた器が生まれるのだろうか。
彼は肝心なことは何もわからないというが、全てわかっているようにも見える。職人的な要素を含みながら、自身の器でしかない。洋の東でもあり西でもある、もしくはそのどちらでもない。簡素であり装飾的でもある。自然そのものであり人工でしかなく、いつまでも眺めていたいし毎日使いたい器でもある。
境をいくひと。後頭部からはまっすぐに背骨が伸び、頭は天に足は地に、背景には過去も現在も未来も広がっている。あわいに立ち、あらゆるあちらとこちらをつなげている。
どんなに言葉を尽くしても、やはり核心には迫れない。糸口を掴んだと思った矢先に軟体動物みたいにスルスルと逃げられる。骨抜きにされたのはこちらの方だと嘆くのが精一杯、まだまだ骨折りが必要なのである。
第二巻 「上出長右衛門窯」
石の器
「重い」という言葉はあまりよい意味に使われないことが多い。最近の言葉使いでは、重いといえば、実際の重量のことよりは、面倒だとかいう意味も含まれるらしい。重い女と言われた日には、愛情も気遣いも存在さえも何もかもが否定されたような気になるに違いない。「重い」には、何となく暗くじめっとして深刻そうで、古く垢抜けない印象もある。
だけどさ、そんなに重いことは悪いことですか。
それじゃぁさ、軽いというのはそんなによいことですか。
別に過去のうらみを晴らそうとしている訳ではない。
器の話である。
上出長右衛門窯は明治十二年創業。現在では少なくなった、生地製作から絵付け、焼成まで一貫して手掛ける九谷焼の窯元である。そのため、絵付けもさることながら、轆轤の技術が大変高く、
生地の美しさは特筆すべきである。
BREAKFASTは、その生地を活かすため、あえて華やかな上絵付けはせず、高台に染付けの線一本という九谷焼らしからぬ、しかし窯の特徴をよく表す選択をした。上出長右衛門窯製作 、丸若屋制作、猿山修デザイン。丸若屋が運営するパリのお店NAKANIWAのためのオリジナルシリーズである。
フランスと日本の両方で愛用してもらえるよう、大きさや重さが熟考された。外国で使う場合、ナイフとフォークの使用を前提にしなければならない。そのためにはある程度の重さと厚み、そして丈夫さが必要である。そのどれもを上出長右衛門窯の生地は併せ持っていた。同時に、器を手に持つ習慣のある日本人には重過ぎてはいけない。
適度な重さは品格を伴う。もの作りの矜持を保ち、歴史に裏打ちされた知恵や技術から生まれる重さだからこそ、品格が伴うのだし、その品格は一朝一夕では表れないのである。軽くて薄いことは必ずしも美しいの条件ではない。すぐに時代に左右される軽薄さとは一線を画しながら、新しいことを取り入れる柔軟性を失わないこともまた、重過ぎない秘訣であろう。ほとんど無地、に挑戦したことは、その証である。
九谷焼は陶石と呼ばれる石が原料の磁器である。硬い陶石は細かく砕かれ、加工され、柔らかい粘土状の塊になる。これを成形、焼成すると、あの白くて滑らかな肌の柔らかささえ感じる器が出来上がる。ちょっとやそっとでは欠けたり割れたりしない硬さ以外は、荒々しい石の面影はない。それでも手にしっかりと、しかし適度な重さを感じる時、ひとは無意識に石を連想するのかもしれない。洗練されるほど、残された重さという自然が際立つ。自然とつながっているという感覚は、ひとに安心感を与える。だから、手にした時に心地よいのだろう。
世の中を見渡せば、どうも何でも軽くなり過ぎたのではないですか。
もう少しだけ、石のようにどっしり構えようではありませんか。
BREAKFASTを使う朝、流されることはない、これでよいのだと自分に立ち返り、今日も軽やかな足取りで街へ一歩を踏み出すのである
タグ: 濱中史朗
展覧会風景。
“alternative white” 濱中史朗展 写真:みなもと忠之
杉工場「猿山修の仕事」展
福岡にて下記の展覧会を行ないます。
杉工場「猿山修の仕事」展
2015年10月17日(土) -25日(日)
11:00ー18:00 会期中無休
10月17日(土) 猿山修在廊
http://www.sugikouba.com/
我が家では毎日、緑茶を飲みます。
ある日、街で美しい急須に出会いました。
何気ないけど、単純で無駄のない美しさに思わず持ち帰り、それが今ではウチの1番選手に。
そのデザインが猿山さんだったと知ったのは後々の事でした。
デザイナーであり、コントラバスの奏者。
麻布十番にて「さる山」の店主という多彩な顔を持つ猿山さん。
彼のデザインするものには、男らしさの中に強い優しさがある。
もっともっと使って、知りたいなと思うのです。
今回、杉工場の家具に待望のテーブルウェアなどが並ぶことになりました。
皆さまどうぞお出かけ下さい。
「猿山修の仕事」展にあわせ、2015年10月17日(土) 14:00より、様々なイベントを行います。
会場:杉工場
・第一工場
福岡県うきは市吉井町249-1
0943-75-3108
・第二工場
福岡県うきは市吉井町富永696-1
0943-76-3284
http://www.sugikouba.com/
上記2会場にて展示いたします。
14:00~
猿山修トークイベント「モノ作りのデザイン その生まれた話」
場所:展示室
参加無料
17:00~
内田輝演奏会
ピアノ・サックス・クラヴィコード奏者。
今回の展示会にあわせ、杉工場の倉庫で録音したCDを発売いたします。
CDのデザインは猿山修さん。
録音場所と同じ古い倉庫で演奏会を行います。
場所:倉庫奥
料金:1500円
19:00
交流会「お酒と器」
猿山修×濱中史朗×大嶺酒造
夜は陶芸家 濱中史朗さん、山口県美祢市 大嶺酒造さんをゲストに向かえ、
ざっくばらんな交流会をします。
日本酒に合うおつまみ付き。
料金:2000円(1ドリンク付き)
第一工場2階 喫茶 夏子
11:00ー17:00
店主、夏子さんセレクトのクラッシックレコード 、珈琲豆は美美さんのBブレンド。
杉工場の二階にて期間限定で営業いたします。
岡山で開催中の「さる山」
8月23日まで続きます。お近くにいらした際には、是非お立寄りください。
会場:CAFÉ DU GRACE 921 GALLERY
709-0816
岡山県赤磐市下市92-1
086-955-4548
http://www1.odn.ne.jp/~cao34500/921gallery.html
会期:2015年8月1日—8月23日
時間:11:00—18:00
最終日のみ16:00まで
休日:水曜日
「gallery's eye ~選ぶ力~」@Kaikai Kiki Gallery
この度さる山は、東京のカイカイキキギャラリーにて開催される
工芸やアートを扱う10軒のギャラリーによるイベント「gallery’s eye ~選ぶ力~」に参加し、
私共は辻野剛(ガラス器)、濱中史朗(陶磁器)両氏を紹介します。
週末二日間のイベントとなりますが、皆さまお誘い合わせのうえ、是非ご来場下さい。
【タイトル】
「gallery’s eye ~選ぶ力~」
【 会期 】
2015年2月14日(土)・15日(日) 11時~19時
※2月13日(金) 13時~19時 は招待日となり入場には招待状が必要となります。
【 会場 】
Kaikai Kiki Gallery
東京都港区元麻布2-3-30 元麻布クレストビルB1F
http://gallery-kaikaikiki.com/about
【 参加ギャラリー 】
桃居
DEE’S HALL
gallery yamahon
Jikonka Tokyo
Oz Zingaro
feel art zero
季の雲
さる山
うつわ楓
うつわノート
【 主催 】
gallery’s eye 実行委員会(参加ギャラリーによる共同運営)
詳細は下記オフィシャルウェブサイトをご覧ください。
Official website: http://gallery-eye.com
facebook: https://www.facebook.com/galleryseye
また、イベントの開催にあわせてpanoramaにて
参加ギャラリーのギャラリストインタビューも掲載されております。
http://panorama-index.jp/webmag/interview_ge/
gallery's eye —選ぶ力—
「さる山」は、来月こちらのイベントに参加します。詳しくは下記のウェブサイトをご覧下さい。
http://gallery-eye.com/
https://www.facebook.com/galleryseye?fref=nf
雑誌『Pen』の公式サイト
“alternative white” 濱中史朗展@さる山が、雑誌『Pen』の公式サイトのニュースに紹介されています。
http://www.pen-online.jp/news/design/saruyama_hamanaka/?_h=212b532ecd8314bcb80471cd6e20ab53