personal products

img_0067w2
その掛け時計には文字盤がない。丸いアルミニウムの盤にほっそりとした針。どちらも素っ気ない銀色。元に戻したのか、先に進めたのか、手を加えたというより引いたといったらよいだろうか。必要であると思っていた幾つもの要素は、実は不要であったと知らされる。振り子の音がここちよい。目に耳に時を刻む。
元は1960年代から80年代にかけてつくられた機械式柱時計であったらしい。ゼンマイ式のそれは、クオーツ式にとって代わられるまで、日本の一般家庭で当たり前に使われていた。そして今、アンティークとしての価値が認められることはほとんどない。しかしその軽妙な音を伴って動く機械の精度の高さ、美しさに、猿山修は惹かれた。その人が心動かされ、時計は再び動き始め、今度は私たちが動かされることになる。
猿山修のpersonal productsが魅力的なのは、それが文字通り‘私的なもの’であるからではないだろうか。その人が実際に人に出会い、ものに出会い、そこに何かを見て、何かをつくること。親密なやり取り。その答え。その背景にはその人の暮らしが、偏っているといっても過言ではないその人の好みが、色濃く反映されている。私的であることを徹底することは、普遍に通ずる数少ない方法のひとつであることをその人は知っている。
その時計は淡い一色に塗られた箱に入れられ、ガラスの板で覆われている。時間は過去から未来へ一定方向に流れているようであるが、この箱の中には昔と今が平気な顔で共存している。    -山本 千夏
「私的なプロダクツ」展
会期 2011年1月31日(月)より2月5日(土)
会期中無休 12時より19時(最終日は17時まで)
主催・会場「ギャルリーワッツ」
東京都港区南青山5-4-44ラポール南青山103
03-3499-2662
http://www.wa2.jp
https://guillemets.net/saruyama/events.html
協力/株式会社東屋、株式会社東青山、Gallery Yamamoto

猿赤 四ツ碗

本日より東京南青山にて「猿赤四ツ碗」展示販売を行ないます。
踊る人 -赤木明登-
少し前、‘アフォーダンス’という言葉を知った。20世紀、アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンの造語である。‘アフォーダンス’(affordance)とは環境が動物に提供するもの。身の回りに潜む「意味」であり行為の「資源」となるもの。
例えば、地面の表面はその水平さ、平坦さや十分な広がりによって、(動物の身体を)支えることをアフォード(afford-与える、提供する)する。それを私たちは土台、地面、床などとよび、それらは動物にとっては身体を「支持する」、その上を「移動する」などのアフォーダンスがあるというわけ、らしい。
この言葉を教えてくれたのは、ひょっとこ踊りの好きな塗師である。そしてこの概念は、自然によって与えられ、作り手が器を作り、使い手が手にするという一連の行為を私に思い起こさせた。自然はその性質によって、作り手に器を作ることをアフォードする。そして今度は、作り手の用意した、質感、形状、機能等といったアフォーダンスによって、受け手はまんまとその器を手にしてしまう。その関係性はちょうど入れ子の椀のようになっている。同時に、その椀が組み合わせや使い方次第で、幾通りもの可能性があるように、自然、作り手、器、受け手の関係性は相互に作用し、それぞれにとっての環境と影響はいつでも入れ替わり可能である。
自然や器といった環境から、私たちは次々に与えられ、やり取りをし、共に変化する。いつの間にか境は消失し、ひどいかぶれを経て漆が塗師の体の一部となり生き続けるように、この器は私の一部となるだろう。
奏でる人 -猿山修-
ヴィオラ・ダ・ガンバという、何かの呪文のような名前の古楽器がある。外観はよく似ているが、ヴァイオリン属とは系統の異なる弦楽器である。主に16~18世紀のヨーロッパで、室内楽や教会音楽に用いられたが、演奏形態が変化し、その規模も大きくなると、音量の小さいこの楽器は、その後一旦廃れてしまう。音楽が生活に密着していればしているほど、その様式の変化に影響されるのだろう。しかし、19世紀末からの古楽復興運動などにより、再び演奏され始める。全盛だったその時と、再発見されてからの今日と、この楽器の魅力は変わったのだろうか。
その人は、とても嬉しそうにその楽器に触れる。それから、音を選んでメロディーを重ね、ひとつの曲を作る。昔からある楽器で、ずっと変わらないドレミの音階を使って、初めて奏でられる音の連なり。初めて聴く新鮮さと、前から知っているような懐かしさのようなものが同居する。全てはずっとずっと昔からあり、その人はただ偶然に出会い、今心地良いと思うものを選ぶ。偶然が必然に変わる。きっとそんな風にして、このお椀も作られた。その人は言う、雄弁ではないし、素っ気ないけれど、何だかちょうどよくて美しいと。ヴィオラ・ダ・ガンバへの最高の褒め言葉。そしてこのお椀にも、何のてらいもなく同じ言葉が言えるだろう。結局好きで、いつも当たり前のように同じ曲を聴く。同じなのにいつも違う。
そんな音楽のようなお椀を私は手離すことが出来ない。
―山本千夏(Gallery Yamamoto)
会場/東青山(ひがしあおやま)
キチンと作られた日用品を
少しずつ選んで並べています。
お直しも承ります。
お運びください。
〒107-0062
東京都港区南青山6-1-6 パレス青山1階
03-3400-5525
welcome@higashiaoyama.jp
http://www.higashiaoyama.jp/
銀座線、半蔵門線、千代田線の表参道駅 A5 出口から徒歩約7分
月、火 休み 正午〜午後8時